2021/08/26 22:48



 糸紡ぎや草木染めをしていると、まるで「魔法使いみたい。」と思うことがあります。


 大きな鍋で細かくした木の枝や葉っぱを煮込んで、魔法の杖のような木の枝でぐるぐるかき混ぜている時や、一見不思議な道具を使ってほわほわの綿から糸を作る時、魔法使いも同じことをしているような気がします。


 なので、肩書を「草木染めの魔法使い」にしました。植物の力を借りてこのようにたくさんの色が出せるって、私にとっては本当に魔法みたい。こんなに不思議で素敵なことを本当はもっとお話ししたいのです。



 「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家の角野栄子さんによると、魔女というのはもともとは「お母さん」のことだったそうです。昔は、厳しい自然の中で家族が健やかに過ごせるようにという願い、家族を守りたいという気持ちはとても切実だったことでしょう。自然と対話しながら体に良いものを取り入れようとして、「すごく体が温まるお茶を作れる人」のように専門化していった結果、薬草に詳しい人=身の回りのいろいろな困りごとを解決する人=魔女、となっていったらしいのです。(NHKあさいち、グレーテルのかまど、「魔女に会った 角野栄子 文・写真、みやこうせい 写真 福音館書店」参考)


 そう考えると、染織も確かに魔法のようです。自然の力を暮らしに取り込む魔法。使う人が健やかで元気になるようにと願う魔法。



 本当に魔法のような力があるかどうかは別として、糸紡ぎのワークショップなどをやると、特にこどもたちから「物語みたい。」「ジブリの世界だね。」という声が聞こえます。グリム童話の「眠り姫」や「千と千尋の神隠し」、また、小学校の教科書に載っている「狸の糸車」というお話をイメージするようで、年配の方の中には家で母親がやっていたという方もいらっしゃるのですが、多くの人にとっては実際の記憶よりも物語の中の方がなじみがあるようです。物語の中では、糸紡ぎの道具は魔法とか魔女とかかわりが深く描かれることが多いですね。道具の形の面白さや、ホワホワの綿や羊毛から糸ができていく様子はまさに魔法のようにも見えます。一昔前の大変な家仕事も、今は参加者が非日常感を楽しんでいるのが面白いところです。


 そして、草木染めによく使われる植物は、薬草としても使われるものが多いといいます。〇〇で染めたものは肌に良い、とか、体を温めるなどという話もあります。染めたものにどのくらいの影響があるのかは実際のところ分かりませんが、昔の人はそういうことまで考えて材料や染料を探し、選んで、後世に伝えてきたのです。魔女の薬草と同じ想いを感じます。


 昔から伝わってきたものは、歴史的なこと、化学(科学)的なこと、不思議な話、暮らしの知恵などの境界線があいまいで、本当のことと空想上のことが表裏一体となっている時があります。例えば、実際に藍には虫よけの効果があるということが知られていますが、魔除けとしての意味もあるといわれているということを聞くと、昔の人が藍染めに込めた願いも感じられて、そのものを作った意味を理解できる気がします。


 商品説明などにはあまり書くことはなくても、そういったものづくりのサイドストーリーも興味深いものです。面白いエピソードがあった時にはブログで紹介していきますので、ご一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。自然とのつながりや昔からの知恵の一端をお伝えできる【草木染めの魔法つかい】になりたいと思います。


 どうぞよろしくお願いいたします。