しっかりとした手触りの布製カードケース。子どもの頃の岩手旅行の記憶から生まれました。 | 草木の色と水の彩(くさきのいろとみずのいろ)

2021/04/05 21:33

 私のルーツの1/4は東北地方です。


 母方の祖母の実家が秋田県の横手にあり、母は子どもの頃にそちらに疎開して、その後岩手に移って20歳前後まで暮らしていました。当時のことや、親戚友人知人のことでも話題に上ることが多かったため、実際に秋田や岩手でで暮らしたことがない私もなじみ深く感じています。

 納豆に砂糖と醤油を入れて食べる食べ方や、「せこがし=めんどうくさがり」、「ぱやぱや=赤ちゃんの髪の毛などを形容する言葉」などの単語が、どうも当時住んでいた東京郊外のあたりでは一般的ではなく、秋田のほうのものだと気が付いたのが高校生くらいの時。家族の中では普通だったのですが、友達に通じなくて軽いカルチャーショックを受けたのを覚えています。

 祖母の実家の古い家ではちょっと不思議な話もいろいろあって、祖母や母の語る昔の話やその土地の話は私にとっては物語の中のことのようにも感じられる、住んでいたことはないのに懐かしい場所です。

 祖母の実家は今はもうなくなっていて、私自身は横手にも岩手にも済んだことはないのですが、岩手には子どもの頃に旅行で連れて行ってもらったことがあります。宮古、花巻、陸中大橋、釜石などを訪れました。その時に、わんこそばをいただいた食堂で、何かの記念で裂き織りの布で作ったお財布をいただいたのです。私はそのお財布がすごく気に入っていて、その後ずいぶん長いこと使っていたました。

 母の裂き織り布で、新しいグッズを作ろうと思ったときに、そのお財布を思い出しました。丈夫で、ある程度の厚みもあって、お財布やポーチ、バッグなどにもってこいの布です。なんといっても、私自身が子どもの頃に使っていたお財布が使いやすく、布自体が魅力的だったので、裂き織り布のお財布の使い心地は感覚的にわかっていました。その時のお財布は、上端にファスナーが付いていましたが、ファスナーの色と本体の色合わせが面白いデザインになると思ったので、自分が作るときにはファスナーが前面に来るデザインにしました。

 2~3年前に試作品を作り始め、家族や親しい方に使ってもらったり、イベントや作品展で販売したりしながら、サイズや縫い方にちいさな工夫を重ねてきました。使っていただいた方からは、厚みがないペタンとした形はポケットに入れやすく、ちょうどカードや診察券などが入る大きさで小銭入れとしても使え、思いのほか使いやすいとご好評をいただいています。

 裂き織り布を使っているので、布に入っている色と合わせてファスナーの色を選ぶのが楽しい作業です。布の柄の出方やファスナーの色がほぼ一つ一つ違うので、実際に手に取って見ていただけないネット販売ではどのように選んでいただくかが難しいなと思っていました。それでも、日常的に裂き織り布で作られたものを使っていただくとしたら、これはぜひおすすめしたいと思い、ネットショップでの販売も開始することにいたしました。

 江戸時代から日本にも広まった棉栽培ですが、暑い土地の作物だったため東北や新潟等の寒い地方では育てることができず、綿の布は大変貴重なものでした。綿の布は古くボロボロなっても捨てずに裂いてテープ状にし、それを緯糸としてまた布を織って使っていました。それが裂き織りの布です。なので、裂き織りは主に棉の栽培に適さない、そして冬の寒さの厳しい地域で切実な事情によって発達した技法です。東北や新潟など裂き織りが盛んに行われた土地には、もしかしたら懐かしさを感じていただける方もいらっしゃるのではないでしょうか。一方で、今まで裂き織り布になじみのない方には新鮮な感じを持っていただけるといいな、と思っています。